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夏休み明け。
なにやら休み中の友だちの話で盛り上がり、
ワイワイと賑やかに私の前を歩く中学生グループがいた。
彼らを見ていて、ちょうど同じ年頃に夏休みの盆踊りで
仲間と馬鹿笑いした日があったことを思い出した。
それは待ち合わせの呼びかけを頼むと放送してくれるぐらい
広い会場で開かれる盆踊りで、その案内サービスを使って
他愛もないいたずらをしたことがあるのです。
まず、同級生にいたずらをした。
盆踊り会場で別のグループの男子を見つけたことで、
その男子が片想いしている女子の名前を騙(かた)り、
そいつを引っ掛けてみようということになった。
男子を[タカクラケン]、
そいつが好きになった女子を[クロキメイサ]とすると、
こんな感じになる。
ポン、ポン、ポ、ポ~ン♪
(ピーーーッ♪)
あ。あ。あ。
(ピーーーーー♪)
え~っ。
ちょっ。ちょっと待って・・・。
・・。
あ。あ。
(キィーーーーーーン♪)
あ~。あ、案内係から、お、お知らせいたします。
●●町のタカクラケン様、タカクラケン様、
■■町のクロキメイサ様が公園入り口でお待ちです。
あ~。く、繰り返します。
●●町のタカクラケン様、●●町のタカクラケン様、
ク、ク、クロキメイサ様が公園入り口でお待ちです。
案内係のおじさんの緊張気味の声が会場のスピーカーから流れる。
すると・・・
メイサからの呼び出しなど有り得ないのに、すっかりその気になった
タカクラケンは待ち合わせ場所である公園入り口に向かう。
そして、下町の盆踊りのトリの定番である
都はるみの “ 好きになった人” が終わるまで、
来るはずのないメイサをソワソワしながら待ち続けたのである。
面白くなった私たちは、
その案内係のおじさんにもいたずらしてみた。
当時、(理由は分らないが)やたらにツバを吐く同級生がいて、
仲間内では彼を「つば仙人」と呼んでいたのだが、
そんなおかしな名前でも放送してくれるかどうか試してみよう
ということになり、今度は待ち合わせの人物名を[つば仙人]で
依頼してみたのである。
『これは、苗字が[ツバ]で名前が[センニン]でいいのかな?』
「はい、そうです」
『分かりました。じゃ、放送します』
難易度が高く、且つ、かなり危険な試みになるだろう、と
身構えて案内係のおじさんに頼んだのだが、町会の役員と思われる
見るからに不器用そうなおじさんは、意外にも簡単に引き受けてくれた。
ポン、ポン、ポ、ポ~ン♪
あ。あ。あ。
(ピーーーーーーーーッ♪)
・・。
あ。あ。
(キィーーーーーーーン♪)
あ~。あ、案内係からお知らせいたします。
●●町のツバ・センニン様、ツバ・センニン様、
▲▲町の◎◎様が公園入り口でお待ちです。
繰り返します。
あ~。
●●町のツバ・センニン様、●●町のツバ・センニン様、
◎◎様が公園入り口でお待ちです。
一度騙(だま)せれば恐いものは無い。
5分後、再びおじさんのところに行き、
「さっきアナウンスしてもらった[ツバセンニン]ですけど、
来ないのでもう一度放送してもらえますか?」と、頼んでみた。
おじさんは気持ちよく引き受けてくれて、再び・・・、
あ~。あ、案内係から、お、お知らせいたします。
●●町のツバ・センニン様、ツバ・センニン様、
▲▲町の◎◎様が先ほどから公園入り口でお待ちです。
あ~。繰り返します。
●●町のツバ・センニン様、●●町のツバ・センニン様、
◎◎様が公園入り口でお待ちです。
あの時、8回も読み上げてくれた[ツバ・センニン]って、
おじさんは一体どんな漢字で想定していたんだろうか?
大人をからかった、懐かしい夏の想い出。