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*写真はイメージ



乗っていた通勤電車の扉がなかなか閉まらない。

丁寧な口調の車内アナウンスが流れてきた。



この先の駅でお客様がホーム上に落し物をされ、

拾得作業のため電車が停止しております。

お客様にはご迷惑をお掛けしておりますが、

発車まで暫くお待ちください。

お急ぎのところを申し訳ありません。



ん?



ホーム上?



離れたところからも「ホーム上?」という

怪訝(けげん)そうな呟きが聞こえた。



慌てんぼうのオバサンが

ガマグチから大量の小銭を撒き散らしたか、

あるいは、

現場に遅刻しそうな朝寝坊のテロリストが

焦って爆弾を落としたか、

電車を止めるほどのホーム上の落し物となると

その条件はかなり限られるはずだ。



ってか、



それって “ホーム上” じゃなくて “線路内” じゃね~の?

当たり前に “線路内” でしょ(笑)



個人的にはちょっと深さのあるツボに入った。





誠実さが伺える声質の車掌さん。

スピーカー越しとは言え、人柄が見えるようだ。

極めて真面目にゆっくりアナウンスしているせいか

逆に “ホーム上” の一言が際立ち、私の頭の中で踊り始めた。



ホーム・・・。



ホーム・・・。



ホーム上・・・。



およそ2分ぐらい経ったろうか、再びアナウンスが流れはじめた。

アクシデントによって電車が停車した後は、

発車直前に必ずお詫びの口上が始まる。

爆弾処理が2分で終わるはずがないので

やっぱり線路内の落し物だったに違いない(笑)



さきほど・・・



車掌さんの声が流れた瞬間、

不思議なことに車内の空気が一体化したように感じられた。



すでに私の頭の中は “ホーム上” という単語カードで埋め尽くされており、

へんな期待が膨らんでいたのだが、

どうやらそれは周囲の乗客も同じだったようである。

このアナウンスを待っていたかのような雰囲気を

車内でヒシヒシと感じる。



また “ホーム上” って言ったら面白いぞ・・・。



これは乗客の期待、いや、もう望みのようなものであっただろう。



電車が遅れた状況を丁寧に伝える車掌さんの穏やかなアナウンスが続く。

キーワードの登場を待つ車内。

なんだろう? この不思議なワクワク感は?

乗客の息を呑む音が聞こえるようだった。



そして・・・



この先の駅でお客様がホーム上に落し物をされ、

拾得のため電車を停止させていました。

ホーム上の拾得作業が終了いたしましたので

この電車もまもなく発車いたします。

お客様にはお急ぎのところご迷惑をお掛けして

まことに申し訳ございませんでした。



息をひそめていた車内の空気がほころんだ。

ホームから転落した人を救出したことを伝えるアナウンスではない。

実際は一つ先の駅で、ただ落し物を拾い上げただけである。

靴の片方かスマホってところだろう。

それなのに、



おぉ、やったぁ!



ぐっじょぶ!



ありがとう!



そんな声無き声が聞こえてくるようだった。

見知らぬ者同士が窮屈な空間に詰め込まれ

普段は無機質な通勤電車内。

それが楽しく思えるのはこういう一体感を得た時なのである。





経験則では、乗降客の多い二つ先の駅で

もう一回アナウンスがあるはずだ。

車内の空気は更に昂揚し、みんなの期待は高まっている。

もう、“ホーム上” の三度目の登場を信じて疑わない

空気が充満している。



予想通り、駅に進入する前にアナウンスが始まった。

ハットトリック目前である。



本日は電車が遅れましたことをお詫びもうしあげます。

この電車は朝の通勤時間帯の混雑と

さきほど発生した落し物を拾得する作業、

また、カサハサミがありました関係で

***駅に約4分ほど遅れて到着いたします。

お急ぎのところまことに申し訳ありません。



えぇっ!?



“ホーム上”が抜けた・・・。



ついに気付いちゃったのか・・・。



残念・・・。



最後に梯子を外された感覚?

あるいは、“ホーム” でのハットトリックを逃した無念からなのか、

電車を降りていく人たちの面持ちは聊(いささ)か消化不良気味に見えた。



が、



私の内心では笑いが続いていた。 

箸が転がっただけで笑える状態になっていた私に

車掌さんはもう一つのツボを用意してくれていたのである。



   カ サ ハ サ ミ 



確かに挟まったんだとは思います。

車掌さんの勝手な体言化に笑いとまらず・・・。











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東京の下町(深川)で生まれて育ちました。ギター演奏と写真撮影が趣味。神楽坂と北海道が好きです。
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ギタリストの岸部眞明さんの音楽に出会って感化され、46歳の時からギターを弾き始めました。下記のページに録音音源をアップしています。

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